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国立大学病院の看護師給与を令和元年度公表資料(平成30年度データ)からみてみる

毎年、文部科学省のウェブページで「独立行政法人国立大学法人等及び特殊法人の役員の報酬等及び職員の給与の水準」として公開されている。

そこで、附属病院をもつ国立大学法人の病院看護職員、つまり国立大学病院の看護師給与を令和元年度公表資料(つまり平成30年度データ)からみてみる。

多分この病院看護職員というカテゴリーには特に明記がない限り看護系職種(看護師、准看護師助産師、保健師)が包含されていると思う。

本データは令和元年度 報道発表 > 文部科学省所管独立行政法人国立大学法人等及び特殊法人の役員の報酬等及び職員の給与の水準(平成30年度)の公表について > 独立行政法人国立大学法人等及び特殊法人の役員の報酬等及び職員の給与の水準(平成30年度) > 国立大学法人(86法人)(文部科学省)(https://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/31/06/attach/1418442.htm)をもとに作成した。

役所のデータ公開データの割にpdfの形式が大学法人ごとに微妙に異なっていて、公開情報範囲も微妙に異なっているところもあって、スクレイピングできずpdfファイルを目視して手入力した。

国立大学法人文部科学省所管の法人なので基本的には人事院勧告に従った水準になっているが、グラフで可視化してみると各大学法人での差が見えてくる……気がする。

グラフはRのggplotで書いた。コードも一緒に載せておく。

常勤職員病院看護師給与総額の平均

常勤職員病院看護師(すべての職位)の給与総額の平均は506.8万円で、対国家公務員指数で100.2となっている。

大学法人ごとの情報公開なので、一大学法人で2病院を有している場合、具体的には東京大学東京大学医学部附属病院東京大学医科学研究所附属病院)、大阪大学大阪大学医学部附属病院大阪大学歯学部附属病院)、東京医科歯科大学東京医科歯科大学医学部附属病院、東京医科歯科大学歯学部附属病院)については一つのまとまった平均しかわからない。

同一大学法人内で病院看護職員の給与体系が大きく異なるとも思えないので、おそらくほぼ一緒。

# 常勤職員病院看護師給与額総額の病院ごと
ggplot(d, aes(x = 常勤職員給与額総額 / 10000,
              y = reorder(大学, 常勤職員給与額総額, identity),
              fill = ..y..)) +
  geom_bar(stat = "identity") +
  scale_x_continuous(breaks = seq(0,1000,50))+
  geom_vline(xintercept = 5068000 / 10000,
             linetype = "dashed") +
  labs(title = "国立大学法人の給与:常勤職員病院看護師平均給与総額",
       x = "看護師平均給与(万円)",
       y = "大学",
       fill = "大学") +
  theme(legend.position = "none",
        panel.background = element_rect(fill = "white"))

f:id:indenkun:20200629174058p:plain

平均給与総額の506.8万円で線を引いている。

この平均給与総額は年齢・学歴調整がされていないので、勤続年数の長い職員が多い、あるいは職位の高い看護職員配置が多いと高くなる傾向になる可能性があるため、一概には言えないが、いわゆる都会にある大学病院のほうが平均給与総額が高いようにみえる。

最上位の大阪大学と最下位の山梨大学の差は150万円近くもある。

pdfには給与水準の対国家公務員指数に加えて、参考として対他法人指数が記載されているので、対他法人で比較したかったが山梨大学のみが空欄になっていたので、対国家公務員指数年齢勘案で比較する。

# 対国家公務員指数年齢勘案の病院ごと
ggplot(d, aes(x = 対国家公務員指数年齢勘案,
              y = reorder(大学, 対国家公務員指数年齢勘案, identity),
              fill = ..y..)) +
  geom_bar(stat = "identity") +
  scale_x_continuous(breaks = seq(0,100,20))+
  geom_vline(xintercept = 100,
             linetype = "dashed") +
  labs(title = "国立大学法人の看護職員の給与:対国家公務員指数年齢勘案",
         x = "対国家公務員指数年齢勘案",
         y = "大学",
       fill = "大学") +
  theme(legend.position = "none",
        panel.background = element_rect(fill = "white"))

f:id:indenkun:20200629174101p:plain

対国家公務員指数年齢勘案100で線を引いている。

この対国家公務員指数年齢勘案と、平均給与総額は正の相関関係がみとめられるため、基本的には対国家公務員指数年齢勘案が高いほど、給与が高いと考えて差し支えないと思う。

cor.test(d$常勤職員給与額総額, d$対国家公務員指数年齢勘案)
## 
##  Pearson's product-moment correlation
## 
## data:  d$常勤職員給与額総額 and d$対国家公務員指数年齢勘案
## t = 6.1725, df = 40, p-value = 2.704e-07
## alternative hypothesis: true correlation is not equal to 0
## 95 percent confidence interval:
##  0.5008357 0.8268553
## sample estimates:
##       cor 
## 0.6984493

対国家公務員指数年齢勘案では国家公務員(病院看護職員)給与対なので、年齢勘案で調整されているようだが概ね100を超えていると国家公務員給与より給与水準が高く、100を下回っていると国家公務員給与より低いと見ることができる。

これも概ね大都市圏にある大学病院で100を超えている傾向にあり、その一因としてpdf内で触れられているが物価指数などを勘案した地域手当が一因としてあると考えられる。

100を超えている大学病院の他の理由としては、高学歴化や准看護師がいないあるいは少ない(1名)などが上げらているが他の大学病院も同じ傾向にあることをみるとそれらは他大学病院をあわせてみると妥当な理由とは言えないのではないかと思う。

ちなみに、地域別にみてみた箱ひげ図は次のとおりになっている。

地域の区分は国立大学病院長会議の国立大学病院(会員・準会員)一覧(http://www.univ-hosp.net/member.shtml)による

ggplot(d, aes(x = 地域, y = 常勤職員給与額総額, fill = 地域)) +
  geom_boxplot() +
  labs(title = "国立大学法人の常勤職員病院看護師の給与:地域別",
       x = "地域",
       y = "常勤職員病院看護師給与総額") +
  geom_hline(yintercept = 5068000) +
  theme(legend.position = "none",
        panel.background = element_rect(fill = "white")) +
  scale_fill_brewer(palette = "Paired")

f:id:indenkun:20200629174105p:plain

常勤職員病院看護師の平均給与額で横線を引いている。

地域の範囲が広いのでなんともいいえないが、中国・四国地方で給与総額の平均が少ないようにみえ、それは対国家公務員指数年齢勘案とも一致している。

職位別

職位別にもデータを好評しているので、看護師(いわゆる一般看護師)、看護師長でみてみる。副看護師長については京都大学鳥取大学で未公表あるいは他職位に丸められている? ため検証していない。副看護部長については鳥取大学愛媛大学で記載がなく、高知大学で人数のみの記載であったため検証していない。

また、看護部長職は全病院で人数が少ない(1~2名)であり、個人情報につながるため給与額平均が公表されていない。

看護師

看護師職位の給与平均額については大学病院の看護師職位の給与平均の平均(以下平均値)で線を引いている。

# 職位看護師の平均給与の病院ごと
ggplot(d, aes(x = 看護師平均給与 / 10000,
              y = reorder(大学, 看護師平均給与, identity),
              fill = ..y..)) +
  geom_bar(stat = "identity") +
  scale_x_continuous(breaks = seq(0,1000,50))+
  geom_vline(xintercept = mean(d$看護師平均給与) / 10000,
             linetype = "dashed") +
  labs(title = "国立大学法人の看護職員の給与:職位看護師平均給与",
       x = "看護師平均給与(万円)",
       y = "大学",
       fill = "大学") +
  theme(legend.position = "none",
        panel.background = element_rect(fill = "white"))

f:id:indenkun:20200629174109p:plain

常勤職員病院看護師の給与総額の平均と似たような傾向になるが、大都市圏の大学病院を超えて上位に位置している大学病院がいくつかある。

例えば大都市圏ではない富山大学宮崎大学秋田大学が上位10位に位置している。これは一般職位の看護師の給与支払いを頑張っているということなのか、あるいは支払いが多くなる要因(超過勤務が常態化しているなど)があるのかはこのデータからでは読み取れない。

平均年齢もデータはあるが、そんなに差があるような感じではない。

ただし、対国家公務員指数年齢勘案で100を下回っている大学の多くは平均値を下回っている。

最上位の大阪大学と最下位の山梨大学との差は約140万円となっている。

地域別では次のようになる。

ggplot(d, aes(x = 地域, y = 看護師平均給与, fill = 地域)) +
  geom_boxplot() +
  labs(title = "国立大学法人の職位看護師の平均給与:地域別",
       x = "地域",
       y = "職位看護師平均給与") +
  geom_hline(yintercept = mean(d$看護師平均給与)) +
  theme(legend.position = "none",
        panel.background = element_rect(fill = "white")) +
  scale_fill_brewer(palette = "Paired")

f:id:indenkun:20200629174136p:plain

常勤職員病院看護師と似たような傾向になっている。

中国・四国地方でやや低く、中部近畿地方で高くなっているようにみえる。

看護師長

看護師職位の給与平均額については大学病院の看護師職位の給与平均の平均(以下平均値)で線を引いている。

# 看護師長の給与の病院ごと
ggplot(d, aes(x = 看護師長平均給与 / 10000,
              y = reorder(大学, 看護師長平均給与, identity),
              fill = ..y..)) +
  geom_bar(stat = "identity") +
  scale_x_continuous(breaks = seq(0,1000,50))+
  geom_vline(xintercept = mean(d$看護師長平均給与) / 10000,
             linetype = "dashed") +
  labs(title = "国立大学法人の看護職員の給与:看護師長平均給与",
       x = "看護師長平均給与(万円)",
       y = "大学",
       fill = "大学") +
  theme(legend.position = "none",
        panel.background = element_rect(fill = "white"))

f:id:indenkun:20200629174208p:plain

一般職位の看護師で上位に食い込んでいた大都市圏ではない大学が軒並み平均値を下回り、順位を下げている。

大都市圏の大学が上位を占めている。

対国家公務員指数年齢勘案と似たような配置になっているので、看護師長になるのがある程度の年齢層以上ということで年齢調整された結果が給料の平均値に影響しているのかもしれない。

地域ごとでみてみる。

ggplot(d, aes(x = 地域, y = 看護師長平均給与, fill = 地域)) +
  geom_boxplot() +
  labs(title = "国立大学法人の職位看護師長の平均給与:地域別",
       x = "地域",
       y = "職位看護師長平均給与") +
  geom_hline(yintercept = mean(d$看護師長平均給与)) +
  theme(legend.position = "none",
        panel.background = element_rect(fill = "white")) +
  scale_fill_brewer(palette = "Paired")

f:id:indenkun:20200629174215p:plain

地域別では、中国・四国地方が低いようにみえるのは他の給与平均と変わらないが、九州地域や北海道東北が他のグラフと比べると下がっているように見える。

最上位の東京大学と最下位の高知大学ではその差が約190万円となっている。

全体を通しての所感

意外と各大学で差があるように見えた。とはいえ全体を通して、だからとうしたということもないわけで、本当にどこの国立大学法人の大学病院の看護職員が最も給与が高いのかはもっと精査しないとわからない。

今回グラフ化したデータ以外でも、例えば通勤手当大阪大学が一番多く他の大学と桁が一つ変わって平均で支給している(常勤職員病院看護師で年間平均10万3千円)というデータなど面白いデータがあった。

通勤手当の基準が大学法人感で大きく違うとは思えないので、大阪大学の看護師の住居が病院から離れているのかなどと思ってしまう。

給与以外で興味深いデータとして非常勤の数、とういか常勤との比があったので以下に書いておく。

非常勤/常勤比

常勤職員病院看護師にたいして非常勤病院看護師がどのくらいいるのかみてみた。

名古屋大学のみ、非常勤についてそもそも具体的な記載がないのでNAとしている。

東京大学は2名以下としているので2名で計算している。 その他大学で1名以下としている大学は1名で計算している。

# 病院看護師の非常勤職員と常勤職員の比率
ggplot(d, aes(x = (非常勤職員病院看護師数 / 常勤職員病院看護師数),
              y = reorder(大学, 非常勤職員病院看護師数 / 常勤職員病院看護師数, "identity"),
              fill = ..y..)) +
  geom_bar(stat = "identity") +
  labs(title = "非常勤対常勤職員病院看護師",
       x = "非常勤職員病院看護師数/常勤職員病院看護師数",
       y = "大学",
       fill = "大学") +
  geom_vline(xintercept = 1) +
  geom_vline(xintercept = 0.5,
             linetype = "dashed") +
  theme(legend.position = "none",
        panel.background = element_rect(fill = "white"))
## Warning: Removed 1 rows containing missing values (position_stack).

f:id:indenkun:20200629180506p:plain

1を超える大学は非常勤のほうが多く、病院看護師の2人に1人以上は非常勤、0.5を超える場合は3人に1人以上は非常勤看護師ということになる。

名古屋大学は先に上げたとおり詳細不明なので一番上にいるが、データはない。

ほとんど常勤が大半を占めているところが多い一方で、非常勤の比が高い病院は他大学を圧倒するくらいに高い。

本当にこんなに非常勤がいるんだろうか? といぶかしがるし、大阪大学は非常勤看護師は特例看護師で常勤職員病院看護師と同じ扱いになっているという旨の記載があり、じゃあ常勤じゃないのか? と謎が深まるばかり。

新入職員・中途入植を非常勤にしているのだとしても半分以上が入れ替わっているのだとしたら多すぎるような感じがするし、育児時短勤務などを非常勤換算しているのだとしても多すぎるし他大学との差が激しすぎると思う。

文部科学省所管の法人なので情報公開請求をすれば詳細が多少分かる可能性もあるが、このデータからだけだと謎と妄想が膨らむ。